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2015.08.23 (Sun)

【全力!ラノベレビュー】消閑の挑戦者 Ⅲ【其の八】

「あのな、やっと分かってん。この世界のこと。
 もう何でも自分で決められるで。だって、なんでも分かるようになったもん」
「分かった。分かったから、もう元の鈴藤さんに戻れよ」
「なんで? 春野くんも、あたしの敵なん? 敵なら、春野くんも……へふへ」

 その言葉を言い終えるより先に、彼の指が小槙の頬をつねっていた。
 小槙と祥が、間近で見つめ合った。

「そんなに怯えるなよ、鈴藤さん。俺は鈴藤さんの味方だよ。
 帰ろうぜ、俺たちの国へ。 いっしょに、帰ろう」

skc3gregre.jpg

 ねえ、春野祥。いざという時は、キミが小槙を救ってくれよ。

 生き急ぐなよ。
 他人の評価に揺らぐほど、キミ自身の才能は脆いものじゃないぜ。


【注意事項】 
(1)ネタバレありです。同作者の他作品にも言及する場合があります。
(2)登場人物データは琳珂の主観で分類・掲載します。
(3)評価は琳珂の独断と偏見と読書歴に基づいて、思うがままに書きます。
 コメントを下さった場合は一応反応しますが、議論をするつもりはございません。
 予めご了承ください。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あのな、やっと分かってん。鈴藤小槙のこと。
もう何でも自分で描けるで。だって、なんでも分かるようになったもん。

……っしゃああああ!
遂に小槙の描き方を掴んだゼッ!!
祥もこの角度(右斜め横)ならバッチリだ!!!
いやったー!!!!≧ヮ≦

ふざけてごめんなさい。笑
それでは追記から【消閑の挑戦者 Ⅲ:ロスト・エリュシオン】のレビューを始めます。

【More・・・】


書籍データ   ―パーフェクト・ゲームが全てを終わらせる!?

 【著】岩井恭平    【イラスト】四季童子
 【出版社】角川書店  【初版発行日】2005年6月1日  【ページ数】460p

登場人物
 【主役】鈴藤小槙、春野祥、イオ・アンセルメ
 【準主役】鈴藤いるる、終野イズミ
 【脇役】病葉剣花、クラウディア・ヘルダーリン、車善鉄、その他

評価   総合:★★★★☆ ……瑞々しい挑戦者だった頃の先生の息吹を感じます。

 【ストーリー】★★★★☆  【戦闘描写】★★★★☆  【人物描写】★★★★☆
 【泣ける度】 ★★★★★  【和む度】 ★★★★☆  【恋してる度】★★★☆☆
 【イラスト】 ★★★★★

レビュー

今作では果須田裕杜に代わる『最強の敵』として終野イズミが登場します。
小槙と祥の成長を見守り、そのキーマンとなりうる人物、いるるも現れます。
ようやく『消閑の挑戦者』というシリーズの方向性が見えてきました。
しかしそれは一冊の読み切りの中に飲み込まれている微かな“予感”にすぎません。
今作はやっぱり、前二作と同じく「何もわからないけれど、辿り着くべき場所も見定められないけれど、無我夢中でただ前進している」物語だと思いました。

つい先日、『サイハテの救世主』と『東京侵域』を読みました。
それらの内容は整然として、文章には一部の隙も無く、人物や戦闘の描写はすべて合理的で、シリーズとしての方向性も明確に示されており、張るべき伏線を張ったあと見事にそれらを仕舞っていました。
比べれば、今作の未熟さは歴然としています。
様々な要素が雑然と詰め込まれ、文章は不安定で、へっぽこな私から見ても「主語と述語の係り受けや、助詞の使い方が変だなぁ」と感じる部分が多々あります。
各種描写には無駄が多く、小難しいギリシャ神話をひっぱりだしてきて語ったり、同じような表現を何度も繰り返したり、寄り道しまくっています。
シリーズとしての方向性は上記の通り曖昧で、「これは今後の伏線なのかな?」と思われるものが幾つも放置されています。

そりゃそうだ。
十年前の作品だもん。
岩井先生だって変わっていくよね。

あとがきを読み比べても、雰囲気は全く違います。
『サイハテ』と『東京侵域』のあとがきには、醒めた目で全体を見渡し、必要なことをソツなくこなしていく“完成された”作家の風格が漂っていました。
でも本当に完成しきっている訳ではなくて、未だに割り切れない激情を心の奥にとじこめているような、仄かなノイズも感じました。
そこから私が思い浮かべた先生の姿は、『サイハテ』3巻でのドクそのままでした。

一方、今作のあとがきからは、生き生きした青年の息遣いを感じました。
きっと当時の岩井先生は、小槙のように分からないものが沢山あって、色んなことで迷いながらも「前に進みたい、進まなければ」と手探りで歩いていて、祥のように葛藤することもあるけれど、前向きな未来への希望を持って、強く生きようとしていたのでしょう。
当時の先生は、未完成な彼らそのままの姿だったのではないかと思いました。

私はかつて「岩井先生は『終わり』を見据えて作品を書き始めてほしい」と述べました。
『消閑』と『ムシウタ』のファンとして、ずっと思っていたことです。
同じようなことを望んでいた人は多かったのでしょう。
その声は、きっと先生自身の耳にも届いていたのでしょう。
だからこうした変化が感じられるのでしょう。
悪いことであるはずがありません。
作家としては間違いなく成長されているのですから。

ただ今作を読み直して、改めて『消閑』や『ムシウタ』は「未熟であること」が魅力的な作品だったのだと気づきました。
未完成な作者が、そのままの自分をぶつけて書いていることが伝わってくるからこそ、これほどまでに面白く、我々の心を打っていたのだなぁ、と。


それでは本編のレビューに入ります。
今作は前作から数週間後、夏休みが終わる直前の小槙と祥が、いるるの導きによってアウルスシティへ向かうところから始まります。
頭は良いけど普通の人間(いるる)と、“超飛躍”が使える人間(小槙・祥)と、人為的に“超飛躍”できるようになった“超人”(クラウディア、車)と、それを超えるよう作られた“超人”(イオ)と、生まれながらに一般人を超えている“突然変異”(イズミ)が入り混じって、訳わからんです。いや、分かるけど。笑
面白いんだよ! その入り混じりっぷりが!!
泣けちゃうんだよ! 物語にのまれちゃうんだよ!!
だからそのわちゃわちゃの中で、なんとなくこのシリーズの方向性が提示されたことに気づきにくいんですよ。笑

今作の存在意義の一つ目は『“超飛躍”はサイレントシナプスの覚醒によるもの(覚醒部位によって能力が違う)』と詳しく説明されたこと。
前作での“閃き型”と“理論型”という分類だけじゃ弱かったですものね。
根っからの文系の私は「とにかくすごいんだな!」と理解しました。(
二つ目は『小槙は“超進化の王”としてどのように進化していくのか』が見えたこと。
今作で、彼女はクラウディアと車と触れ合い、彼らの“超飛躍”を吸収したようです(同じ部位のサイレントシナプスが覚醒したっぽい?)。
つまりこれから小槙は世界各地を巡り、様々な“超飛躍”の主に出逢ってその能力を吸収して最強を目指していくという未来が見えます。
三つ目は『小槙のゴール』がはっきりしたこと。
人間としては、いるるが述べたように『笑顔をとりもどす・獲得する』。
そこには春野祥も関与するはずです。
“超飛躍の王”としては、『終野イズミを倒す』。
展開によっては、いるるも倒さなきゃ(止めなきゃ)いけないかもしれませんね。

『春野祥のゴールはどうするんだ?』という疑問は残るものの、他の問題については突破口を開き、一冊の読みきりとしても楽しめる今作のストーリーは「やや惜しい」の★4と評価させていただきました。


戦闘描写はいつにも増してドラマチックで、特にイズミが圧巻です。
殺しても死なない“突然変異”の凄まじさが伝わってきます。
ラスボスに相応しい貫禄ですね。
イオをはじめとした“超人”たちや小槙の能力もしっかり描かれていました。
……祥は皆にボコボコにされてて可哀想だったなぁ><
やられっぱなしじゃなくて、必ず一矢は報いてくれるんだけど。。
やっぱり、彼にも何か特殊能力がほしいですね。
いくら鉄のメンタルを持っているとはいえ、このままじゃ鬱になるよ!
ドクみたいになっちゃうよ!!そんな祥は嫌だよ!!!
“突然変異”や“超飛躍”をも超える普通人として覚醒してほしいです(無茶な

人物描写はもりもりです。食べ応え抜群です。
今回は植物の花言葉ではなく、ギリシャ神話を多用しておられます。
チャットルームでの会話も風情があります。
全体的に無駄(寄り道)が多くて、ふよふよしてて潤ってます。
すっごく良いです。癒されます。。
無駄を全部削ぎ落として洗練されてる近代的な庭園もいいけど、色とりどりの雑草が生え放題の古民家の庭の方が好きなんですよ、私は。
なかでも小槙はとびきり可愛いですね。
祥のシャツ掴んでひきとめちゃうとこなんか最高。
イオをおっかけるとこも至高。
命のやりとりをするイオとイズミの会話&戦闘シーンも、双方の人間的魅力が存分に発露されてて、思わずうっとりしちゃいます。
そして泣けます。

今作の泣き所はイオ・アンセルメそのものです。
『我が人生』にまつわるお話も、友情話も、涙なくしては読めません。
他の超人たちの事情も可哀想だし、彼らを丁寧に絶望へ叩き落としていくイズミや彼女自身にも泣けます。
小槙の「春野くん、助けて。助けて。助けて」もやばい。
予めカラーページで知っていたはずなのに、涙腺崩壊します。
そのメッセージを見て立ち上がる傷だらけの祥もイケメンです。

和み度が高いのは、いるるの存在が大きいです。
あの小槙が保護者をやっている姿は微笑ましい。
イズミは、豹変前も後も突き抜けたキャラで面白いです。
祥と彼女たちの関係もいいですね~。
自分はイズミと仲良くするくせに、小槙がイオと仲がいいと嫉妬する祥が可愛い。笑

恋してる度はほどほどです。
クラウディア→イオ、車→クラウディア、イオ→小槙という関係は、典型的なチャットルームでの恋模様っぽくて共感しやすいです。
ああ、昔、ルチアでもこんな恋模様があったけなぁ。笑
……それはおいといて。
彼らは“超人”であるがゆえに、その恋模様は切なくて儚くて胸打たれました。
イズミ→祥のカップルは、意外とちゃんと恋してましたね。
小槙と祥の関係も少しは進展した気がします。
もーちょっと接近してくれたら、もーちょっとニヤニヤできるんだけどな(

イラストは、前述の「助けて。助けて。助けて」のカラーページが絶品です。
他のカラーや挿絵のシーン選びも的確で、「ここはイラストで見たい!」と思うシーンを全て押さえてくれています。
素晴らしい。
また、どのカットを見ても、キャラクターが生き生きしています。
酔ったいるるも、可愛い友達だったイズミも、暗殺者の素顔をさらしたイズミも、小槙へ優しい笑顔を向ける祥も。
素晴らしすぎる。
時計塔での戦闘シーンは影だけで表されてて超カッコいい。
表紙は神秘的です。
今作初登場のいるる、病葉博士、イズミのデザインもそれぞれ個性的で○。
天晴としか言いようがありません。


いやはや。
このレビューを書くため、久しぶりに今作を読みましたが、とてもワクワクしました。
初めて今作を手に取り、読み終えた時と同じでした。
「面白かったなぁ! 続きが楽しみだなぁ!!」と思いました。
あの日から十年以上経っているだなんて信じられません。

これまでの岩井先生には『消閑の挑戦者』を書くことはできなかったのでしょう。
きっと、今でも。。

でもいつか、“完成した”岩井先生ならやってくれるはずです。
このシリーズを完結させてくれるはずです。
先生は必ずその境地に辿り着くはずだと、私は信じています。

とはいえ、果須田裕杜やドクのようにはなってほしくありません。
それは先生のあるべき姿ではないと思います。
『三つ子の魂百まで』という諺もあります。
“完成した岩井恭平”先生は、
“完成した鈴藤小槙”や“完成した春野祥”そのままの姿であるはずです。

そんな先生とその著作に出逢える日を、私は待ち続けたいと思います。
いつまでも、ここで、風琳珂として。
現実世界を生きる私自身としても。


以上で【消閑の挑戦者 Ⅲ:ロスト・エリュシオン】のレビューを終わります。
ありがとうございました。
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