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2015.08.21 (Fri)

【全力!ラノベレビュー】サイハテの救世主 Ⅲ【其の七】

「ぼくはどうやら君に好意を抱いているようだが、君もぼくを愛しているのか?」

 葉はジャケットからもう一枚の紙幣を取り出し、カウンターに置く。
 しかし、いくら待っても返答はない。

「非常に重要な質問なんだ。世界のためにも、確かめなければならない。
 ぼくと君が共有しうる感情は、愛情というものなのだろうか。
 それとも単なる肉体的な接触および子孫を残すための本能による欲情に過ぎないのか」

sihtrererer.jpg

何を救うべきか。何を救っているのか。
そんなことも分からずに、世界を救うのは限界だった。

【注意事項】 
(1)ネタバレありです。同作者の他作品にも言及する場合があります。
(2)登場人物データは琳珂の主観で分類・掲載します。
(3)評価は琳珂の独断と偏見と読書歴に基づいて、思うがままに書きます。
 コメントを下さった場合は一応反応しますが、議論をするつもりはございません。
 予めご了承ください。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
やっぱりドクの描き方が分からんぜよ。。
まぁとりあえず今作で完結っぽいし、良しとしようかなぁ。。。


では追記から【サイハテの救世主 Ⅲ:文明喰らい】のレビューを始めます。

【More・・・】


書籍データ   ―人間は幼く愚か、だから天才が必要なのです。

 【著】岩井恭平    【イラスト】Bou
 【出版社】角川書店  【初版発行日】2013年8月1日  【ページ数】362p

登場人物
 【主役】沙藤葉(ドク)、濱門陸
 【準主役】ノーラ・ダーリン、エリク・グッドオール・ジュニア
 【脇役】ファリザ事務総長、又吉三三子、バウスフィールド照瑠、夏生、海姉 他

評価   総合:★★★☆☆ ……このシリーズはもっと戦えたはず。

 【ストーリー】★★★★☆  【戦闘描写】★★★★☆  【人物描写】★★★★☆
 【泣ける度】 ★★☆☆☆  【和む度】 ★★★☆☆  【恋してる度】★★★★☆
 【イラスト】 ★★★☆☆

レビュー

シリーズ最終巻となる今作は、前二作より遥かに読みやすくて面白かったです。
漬物嫌いの私でも食べられる甘いたくあんくらいでした。
前回のレビュー時に「1巻より2巻の方が良かった。3巻はもっと良くなるのかな?」と述べたところ、その通りだったので驚いています。笑

要因は大きく分けて三つありました。
一つ目は、残酷な描写が減った=ドクの扱いがマシになっていること。
今作では登場人物がむやみやたらと彼を殴ったり、蹴ったり、言葉の暴力で苛めたりするシーンがほとんどありません。
薬を盛ったりして無力化し、拘束具でぐるぐる巻きにして無理矢理移動させるようなこともありません。
随分と人道的な扱いになっているので、心安らかに読み進めることができました。

二つ目は、ドクが自分の意志で積極的に行動していること。
前作までの彼は常にネガティブでした。
頑張らなければ他者に責め立てられるから、自分の中にある責任感に押しつぶされそうになるから、「いやだいやだ辛い辛い怖い怖い無理だ無理だ」と泣きわめきながら「やりたくないけどやらなきゃ」と消極的に行動していました。
その姿はとても憐れで見るに堪えませんでした。
しかし、今作でのドクは違います。
「も、問題ない。今回もぼくが人類を救ってやる。心配はいらないからな」(p.160)と意気込んだり、自分を排除しようとする人々に対して「ふ、ふざけるな。ぼくはまだやれる」(p.170)と対抗したり、「お、お前らが勝手に盗んだんじゃないか」(p.200)と発明者としての自分の立場&権利を主張したり。
陸への無茶苦茶な告白もそうです。
前二作では考えられなかったほど自尊心を持ち、「今のぼくには荷が重いけど、上手くできないけど、やりぬきたい」と一生懸命行動する姿は、見ていて気持ちが良かったです。

三つ目は、沖縄パートの描写がきちんとしていたことです。
前作までで「救いの場所であるはずの沖縄がこんなクオリティでいいんかい」と呆れ果て、ある意味諦めていたぶん、今作の描写はとても温かく感じました。
相変わらず無意味な暴力や悪口もあったけど、微笑ましいレベルに落ち着いてました。
エイサー祭りにまつわるエピソードを通じて、ゴーヤ爺やオバァ、夏生、照瑠などの面々の魅力を感じることができたし、なんとかドク→陸の恋心を理解できる程度には彼女の良さが伝わってきました。
これは今作のドクが生き生きしていたことと、これまで積み重ねてきたことの両方が実を結んだ結果といえます。
まともな人間関係を構築するには、やっぱり相応の時間というか描写の質と量が必要だなぁと感じました。

……ほんと、今作は普通に楽しめました。前二作は一体なんだったんだろう?
ああ、そうか。ただの悪夢だったのか(

このシリーズにとって、第一巻~今作までのエピソードは『過去編(番外編)』であればよかったのに。
今作でのドク(『人間が嫌いな天才』と『天才である自分を嫌がる人間』という二重人格の狭間で揺れ動きつつ「ぼくも人類と愛し合えるかもしれない」という希望をもっている少年)には、主人公としてちゃんと魅力がありました。
この状態の彼が、陸やノーラを交えて様々な論文の回収に勤しむ物語にすればよかった。
それならば『サイハテの救世主』は、『ムシウタ』以前からのファンを切り捨てることなく、新たなファン層をも開拓できる新シリーズとして展開できたでしょう。
きっとドクは、新たな岩井作品のヒーローとして、祥や大助や鯱人と同じくらい愛されたことでしょう。
そうしてシリーズが安定した後に「実は第一巻以前までのドクは大変だったんだよ」と明かす過去編として、ムシウタにおけるbugシリーズのような位置づけで『破壊者』や『黄金火山と幸福の少女』のエピソードを書いてくれればよかった。
物語を時系列順に刊行する必要は全くないのですから。
それならば、読者はその悲惨さや暗さに驚きつつも「私の大好きなドクというキャラクターはこんな辛い人生を送っていたのか。可哀想に。ますます好きになった!」と思えたかもしれません。
sihtmshih.jpg
(↑私の主張を図解してみました。分かりやすくするためにムシウタと並べてます)

ああ、もったいない。かえすがえす残念です。
今作のような書き方ができるのであれば、
『サイハテの救世主』というシリーズはもっと戦えたはずです。
どう考えても、売り出し方がダメだった。
物語の魅せ方がダメだった。
これは岩井先生というより、作品をプロデュースする編集部や出版社側の問題です。
ああ、せっかくの作品を悪夢にしやがって、許せません。(
許せませんが……いい加減にして、本編のレビューへ移ります。笑


ストーリーは、ドクが砂漠で発見された『文明喰らい』という生物=災厄を駆除すべく奮闘しながら、自らの二重人格問題に向き合い、エイサー祭りを通じて沖縄の素晴らしさを感じつつ、陸への恋心に気づいて生きる希望を見出すというもの。
様々な要素が同時に展開していく流れは楽しいですね。
落ち着きなく沖縄と死地を往復するのは前と同じですが、読者としてそれに慣れたこと、沖縄が魅力的に描かれていること、往復理由が単純な逃避ではないこと、移動方法が人道的になっていることなどの理由によって大らかに受け入れられました。
また、最終巻としてこれまでの伏線を回収しており、オチもつけています。
「なぜこのクオリティを前二作でやってくれなかったんだ」と憤りを覚えるので、評価は★3とさせていただきました。(

戦闘は安定してますね。
不気味な生物と、それに対抗する超テクノロジー。エリクと三三子の肉弾戦。
上手くまとまっていたと思います。普通に面白かったので★4です。

人物描写は、酷い暴力や謎のエロ要素が減り、先生らしい情感豊かな文章に戻っていたので★4にしました。
何より、ようやくドクの設定が明らかになったことが大きいです。
彼は壊れて天才からゴミに成り下がっていたわけではなく、世界への絶望というトリガーによって人格が入れ替わっていた(才能を発揮できなくなっていた)のですね。
うん。これなら納得できます。
最初から、この設定をしっかり書いてほしかった。
主人公が自他ともに認める『壊れたゴミ』で、悲惨で哀れで全く共感も憧れもできないなんて、そんな物語をどうやって楽しめばよかったというのでしょう?
二重人格に戸惑い、自分の身の振り方に悩みながらも、まともな主体性を発揮する今作のドクは魅力的でした。
愛すべきヒーローとして描かれていました。

陸も、なんとか普通のヒロインらしくなってくれました。
アイス売りのバイトの場面はとても微笑ましかったです。
ドクが彼女に惚れたのも共感できました。
よかった。本当によかったです。
マジでもう消えてくれってずっと思ってたので。。
……一巻から二巻、さらに今作へと、少しずつ彼女はドクを理解してきて、やっとこの境地へ辿り着いたってことは分かります。
ああ、だからこそ今作までの流れは過去編でよかったよ。。
ドクと陸は友人以上恋人未満の関係(仲良いんだけど、彼がしばしば滅茶苦茶な愛の告白をして、彼女は満更でもない様子ながらも怒ってそれを退け続けるみたいな)で物語を始めておいて、過去編としてこれまでの流れを書けば「どうしてドクはこんなにも陸に惚れているのか?」「何故ずっと陸は怒っていてまともな返答をしないのか?」という答え合わせになったはずです。
そこからスタートしてくれた方が絶対によかった。
陸に対して、余計な負の感情を抱かずに済んだはずですから。
ああ、もったいなかったです。

彼らの次に人物描写が濃かったのはノーラですかね。
ストーリー展開に合わせて『助手というよりもドクの忠実なファン』→『実は野心家でドクを裏切った?』→『結局、誰よりもドクに忠実なファンだった』と、丁寧に描写が積み重ねられていました。
正直、ひたすらめんどくさかったです。
だってどうでもいいもん! (
『忠実なファン』だろうが『野心家』だろうが、彼女は『天才のドク』にしか興味がない、ドクにとって迷惑で失礼で野蛮な最悪の変質者であることにかわりありません。
彼と切り離した一人の人物として見ると、何の特徴も個性もない、どんな過去や思想や信念をもっているのかも分からない、ただの美人で頭が切れるだけの女性だし。
心の底からどうでもよかったです。
物語を進めるためとはいえ、ノーラなんかにページ数割かなくてよかったよ……。
割くんだったら、それなりに魅力ある人物にしてほしかったです。
たとえば土師圭吾のように。

エリクも活躍していました。それだけに惜しかった。
彼がもっとまともに良いヤツで、ドクとまともな親友関係を築いていたら、その裏切りも、哀しい過去も、ドクへの嫉妬によって身を滅ぼしてしまったことも、胸が締め付けられるような物語となったことでしょう。
あのクライマックスは号泣必至の名シーンとなっていたことでしょう。
しかし残念ながら、彼は2巻での登場時から「ドクなんか大嫌いだ!」全開の暴力野郎で、贔屓目に見ても良さとクズ度が『2:8』くらいのキャラだったので、あまり感動できませんでした。
あー、もしかしてエリクからドクへの暴力は『好きな子をいじめちゃう幼稚園男子』くらいの捉え方をしておけばよかったのかな。
……とてもそんなレベルには受け取れなかったなぁ(とおいめ
また今作での描写で、エリクと夏生は『クラスの人気者(ドクとは正反対のタイプ)』という点で似ていることが発覚しました。
その設定をもっと早くから生かして、夏生の登場回数も増やしておけばよかったのに。
『沖縄で出来た新しい親友・夏生』と『高校時代の親友・エリク』、それぞれとの友情をしっかり描いて対比しておけば、片方は両想いの真実で、もう一方は片思いの紛い物であったという切なさが際立ったはずです。


そんなこんなで、泣き所はあまりありません。
エリクでほんの少しとナルビア関連くらいかなぁ。
和みどころは沖縄です。ああ、やっとこう言うことができました。笑
照瑠やゴーヤ爺を助けたり、夏生を「人気者め」とひがんでみたり。
やってることは前二作とあまり変わらないはずですが、今作のドクは生き生きしていて、ちょっとした行動が全て微笑ましいです。
まさかの場面でぶっとんだ台詞で陸に告白するのも笑えました。

ドクと陸が安定したおかげで、恋してる度も高まってます。
↑でとりあげた名言もいいですね。
愛情か欲情か?って難しい問題だと思います。
相手を愛してれば欲情することもあるでしょう。
でも、その逆はあるのかなぁ。
別に欲情が悪いものだとは思ってませんが、愛を望んでいる場合には、最初くらいは区別して受け取りたいですよね。
個人的には、誰かにひたすら欲情するっていうのがよく分かりません。
……お子さまなせいかしら^^;
しかし、異性から自分に向けられた感情がどちらか判断できずに困ったことはあります。
だからこそ『言葉』が重要だと思います。
ドクくらい冷静に論理的に問いかけられたら、話は楽だろうなぁ。
だけど突然こんなの言われたら、陸みたいに怒るだろうなぁ。
双方に共感できました。笑
とはいえ、このまますんなりとくっついてもアレなので、海姉に見惚れるギャグシーンで終わって良かったです。
せっかくのバカンスだしね。


最後はイラストについて。
第一巻~今作までの表紙をずらりと並べると、全て一年半以内に刊行されているとは思えないほどの違和感があります。
どれも色の塗り方が違う。ドクの顔が違う。
これはムシウタでのるろお先生のように『シリーズ完結までの十年間に絵師としての技量が上がり、少し画風も変わったのね』と納得できるような状態ではありません。
まったくもって安定しない絵師さんですね……。
沢山の絵柄や手法を使い分けられるのは、悪いことではありません。
引き出しが多いのはむしろ良いことでしょう。
しかしシリーズ物のイラストを担当するのであれば、第一巻を制作するときに作者や編集者と話し合って「今作はどんな絵柄でいくのか」「どんな雰囲気にするのか」をきっちり練り固めるべきです。
その努力なくして、作品の世界観を構築することは不可能でしょう。
文章と絵の両方を備えていることがラノベの良さなのですから、もう少し頑張ってほしかったです。
……ただ、『サイハテの救世主』シリーズの雰囲気を最も表現できていたのは第三巻のイラストだったと思うので、評価は★3にしました。

カラーページと挿絵は、描くべきシーンとキャラクター(主にドクとエリク)を押さえてましたね。三三子はエヴァのマリみたいでした。デザインのせいかな。笑
何にせよ第二巻までの露骨なキャラ萌狙いがなくなってて良かったです。
敢えて突っ込むとすれば「シリーズ最終巻なんだから、一度くらい無表情以外のドク―できれば晴れ晴れとした笑顔(どアップ)を見せてほしかった」というくらいです。
まぁこれは物語の流れの問題(作中でも「はじめて眉間のしわがなくなった」程度の描写しかないし……)ですから、仕方ないですね。。。


さて。
私はこのシリーズのレビューを書くにあたって、他の人々の意見や感想にほとんど触れておりません。
第三巻で完結しているということも、本編のあとがきで知ったくらいです。
何故か?
それは、第一巻を半分ほど読んだ時点で心が折れていたからです。
「岩井先生は『ムシウタ』以前の読者を全て切り捨てるおつもりなのか」と感じ、「それならば私はこのシリーズを読んだり、関連情報に触れたりすることをやめよう」と思ったからです。
しかし今年に入って『東京侵域』を読んで、前半の感想は間違いだったのかもしれないと思い直しました。だから、意を決して最後まで読み通してみました。
一冊ずつ読んで感想を書くことを繰り返してきたので、今読み返すと、とんでもなく的外れなことを書いていたりもします。
でも、やってみてよかったです。

これからも岩井先生には、あとがきの通り「自分が書いていて面白いと思うもの」を書いていってほしいです。
それが面白ければ、私は熱烈に応援させていただきます。
それがつまらなければ、どこがどうつまらないのか、全力で感想を書きたいです。

私、風琳珂はずっと、生まれたときから『ムシウタファン』でございました。
『ムシウタの作者である岩井先生』をひたすらに愛しておりました。

これからは、作家・岩井恭平先生のファンになりたいです。
そして、一人の人間としての岩井恭平さんのシアワセも願っていきたいと思います。


以上で【サイハテの救世主 Ⅲ:文明喰らい】のレビューを終わります。
ありがとうございました。
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